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蘇生

20110707

7月7日、七夕です。そういえば、このブログを開設したのも、7月7日だったような気がします。
ようやく新居にネットがつながったので、もう黙々と、淡々とおとなしくブログ連載でもしようかと思います。
やるぞー! たぶん!
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(sideB-1) Ballade No.1

20100922

 この世には運が良い人と、そうでない人がいる。

 それは確かな事だと思うし、その上で自分はあまり運が良くない部類の人間だと思っていたのだけれど、今回の一件で私はその考えを改めなければと思い始めた。

 手許の本を閉じ、ぐるりと部屋を見回してみる。

 一人で過ごすには少し大きな部屋。西向きの窓には、もうカーテンが掛っている。
 何と言っても目を引くのは、部屋の中央にある立派なグランドピアノだ。壁を良く見ると無数の小さな穴が等間隔に開いており、ここが防音室なのだと分かる。
 部屋の隅で申し訳なさそうにしている、しかし立派な木製のベッドは現在の私の寝床だ。隣室には小さなシンクとコンロまである。

 壁に掛っている時計に目を遣ると、そろそろ夜の七時になろうかという時間になっていた。もうそろそろ『彼女』が来る時間だ。

 私の幸運は、この寝床を――帰る場所を与えられたこと。
 自分に嫌気が差して、大切な人さえをも傷つけて逃げ出した私を、あたたかく迎えてくれたこと。
 とても静かな、けれどあたたかな場所。
 それを享受することに躊躇いを覚えなかったというと嘘になるが、しかし今は純粋に感謝をしている。

 階段を上がって来る足音が聞こえて来た。木製の階段はだいぶ年季が入っていて、体重の軽い『彼女』でも駆け足で登って来ると、ぎぃ、と軋む音を立てる。
 部屋の扉の前で足音が止まった。呼吸を整えているのかもしれない、乱れた髪を直して居るのかもしれない。

 とんとんとん。
 ノックがみっつ。

 私は椅子から腰を上げる。『彼女』は決して自分でドアを開けないからだ。
 きぃ、と音を立ててドアが開くと、そこには柔らかな笑みを湛えた『彼女』が――薫(かおり)がいた。
 どうしたの、と訊ねると薫は手に持った金色に光る物を私に見せた。

 「それ――紅茶?」

 薫は私の問いににっこりと笑って頷いてみせた。
 私はその缶を受け取り、私は隣の部屋に行き、やかんに水を入れてコンロに火を付ける。
 部屋に戻ると、薫はピアノの前に座って鞄から取り出した楽譜を読んでいるところだった。

 ――薫は、言葉が話せない。

 詳しい事情は聞いていなかったが、どうやら後天的なものらしい。
 だから私と薫のコミュニケーションは、私は言葉で、薫は手話や文字でという形で取っている。

 お湯が沸くのを待っている間、ぼんやりと薫を眺めていると、彼女は思い立ったように、ぱたん、と楽譜を閉じて薫は鍵盤に白くて綺麗な手を乗せた。

 変イ長調のユニゾンが部屋に響いた。
 ショパンのバラード第一番だった。
 私は音楽は全く詳しくないけれど、薫の弾くピアノは、音がきらきらとしていると思う。特に彼女の弾くショパンは儚げで、美しい。
 薫は火にかけたやかんの事などつい忘れてしまいそうな演奏を事も無げにしてしまう。
 気に入らないと止まる事も多い薫だが、今回は珍しく音を続けて紡いでいる。
 力強く、胸を打つ主題が駆けあがって行く。

 ふと見遣ると、カーテンの隙間から、細かい雨が降り始めたのが見えた。
 
 ショパン バラード第一番(youtube)

僕が旅に出る理由は大体百個くらいあって

20100911

ども。現在岡山のビジネスホテルに居ます。

 一人旅なので、基本的に写真ばっかり撮っているのですが、

PCを持ってきていないので、文章を書く欲求が蓄積されております。
 小説書きてえええええええええええええ!!

 プロットだけをアイデアノートに書いたりしてます。規制解除されていれば、SSに使おうかな。


 あしたは直島に行ってから、四国上陸して、うどんを食べて参ります。楽しみだー。

 内容の無い旅ブログでした。フヒヒサーセン

(sideA-4) 246

20100904

 どうやら、かなり無理をしていたらしい。
 本人も気が付かないうちに、と言う点は僕にとって幸運でもあり、不運でもあった。
 わたしは君の先輩なんだからと言われてしまい、バーで伝票の奪い合いをする事の不毛さに気が付いて素直に割り勘で会計を済ませ、さあ店を出ようとしたその時だった。

「あ、あれっ?」
 椅子から立ち上がった先輩は、真っ直ぐ立つことすら覚束ない様子で、その事に自分自身驚いているようだった。
「だっ、大丈夫ですか?」
「うん、ありがと。おかしいなあ、そんなに酔っ払っているつもりはなかったんだけど……」
 確かに先程までの先輩は全く酔っているようには見えなかった。顔も紅くなっていないし、もちろん呂律が回らないような事も無い。
 楽しくてつい飲みすぎちゃったかな、と先輩は笑った。

「肩、貸しましょうか?」
 バーの木戸を開けて、夏の夜が持つ独特の空気に満ちたアスファルトに立った僕は、先輩の危なっかしい足取りを見かねてそう言った。

「ええーっ? 嫌だよ。新橋のサラリーマンじゃあるまいし。大丈夫、ひとりで歩け」
 と。そこまで口にして、先輩はバランスを崩した。
 ぽすん、と。
 咄嗟に庇うようにした僕の胸に先輩の身体が預けられて、僕はその細くて流れるような髪から薫る少しだけ甘い匂いに目眩を起こしそうになる。

「ご、ごめん」
 僕の胸の中から脱出しようとして、もぞもぞと身じろぎをしながら先輩が言った。
 訪れた数秒間の沈黙。
 車が通りを抜けていく音だけが聞こえる。
「タクシー拾いますから、大きい通りに出ましょう」
 僕はそれだけ言って、先輩の肩を掴んで身体から離すと歩けますか、と訊いた。
 先輩がこくりと頷くのを見て、ゆっくりと人通りの少ない道を歩き始める。

「本当にごめんね」

 心底そう思っているのだろう、しおらしい表情で先輩が言う。
 僕はいえ、とだけ返した。
 先輩がいつバランスを崩しても大丈夫なような位置を保って歩き続ける。
 先輩の履くパンプスの控え目な高さのヒールが立てる音に呼応するように、夜道を照らす自動販売機がぶうん、と唸りをあげた。

「水、飲みますか?」
 自販機を認めて訊ねてみる。
「ううん、大丈夫」
「無理はしないでくださいね?」
「うん。……ねぇ」

 かつ、かつ、かつ。
 一歩一歩、確かめるように歩を進めながら先輩が言う。
「怒ってる?」
 伺うような口調だった。

「え、どうして僕が怒るんですか?」
 先輩が飲み過ぎて、こんな姿になっていることに対してなのだろうか。それだったら、調子に乗って一緒に飲み過ぎた自分も同罪だろう。

 しかし。

 先輩の口から出た言葉は、僕が全く予想していなかったもので、だからだろうか。それは少しだけ僕を動揺させた。
「あの日、無理にオーストリア行きの切符を買ったこと」

 息を呑んだ。
 あの日。あの知らせを聞いた僕は茫然自失としてしまって、それを見た先輩は僕に飛行機のチケットを叩きつけて言ったのだ。忘れもしない。

 ――行って来なよ。見てられないから。

 結果から言うと、僕はその好意を無駄にした。あまつさえ「余計な御世話だ」とチケットを付き返しすらしたのだ。
 今日は――その出来事はもう何年も昔の話なのだけれど、それ以来の再会だった。

「謝るのは僕の方ですよ」
 ようやく大通りに出て、目端でタクシーを探しながら言った。
 行き交う車のランプが夜の街を眩いばかりに照らしている。
「だって。どう考えても余計な事をしたよ、わたし」
 先輩が声のヴォリュームを抑えられずに言う。やはり大分酔っているのかも知れない。

 青山通りを渋谷から流れて来たタクシーを認めて右手を挙げると、緑色の車体がハザードランプを点灯させて、僕たちの前に停まった。
 後部座席のドアが開く。
「本当に、怒ってなんかいませんから」
 それだけ言って笑ってみせたが、先輩はまだ何か言いたそうに不安げな顔をしている。

「定演、楽しみにしてます」
 バーのおつりの五千円札を無愛想な運転手に渡し、頼りない足取りの先輩を座席に押し込むと、先輩も諦めたような表情になった。
「チケットはペアで用意しておくから」
 先輩が笑って言う。彼女を満足させるためには一体だれを連れていけば良いというのだろうか。
 僕は苦笑いをして、おやすみなさいとだけ言った。
 先輩が笑って頷いたのと、タクシーのドアが閉まるのはほぼ同時だった。

 手を振る先輩を乗せた緑色が見えなくなるまでそこに立ち尽くしていた僕は、さて誰を誘おうかとぼんやりとした頭で考えていた。
 一体、先輩は何を思ってペアチケットを用意すると言ったのだろう。
 どうせプライベートなど無いに等しい人間である。個人的な友人から探す気にもなれず、クラシックが好きな自分の担当の作家先生を検索し始めた。
 それと同時に、後悔をした。
 ――また来たの、と静かに笑う顔がフラッシュバックする。

「まったく。何をしているんだ、俺は」
 誰に見せる訳でもない、けれど苦笑いをせざるを得なくて、そんな自分を情けなく感じながら地下鉄の駅に向けて歩を進めるのだった。

(sideA-3) moonlight sonata

20100827

 早川薫(はやかわかおり)。
 生まれつき言葉が話せないという彼女が外国のコンクールで金賞を取った昨年、その端正な容姿、そして現役の音大生という若さもあってだろう、マスコミは挙ってそれを取り上げた。

 それは同じマスコミュニケーションを稼業にしている僕から見ても、早川薫が少しだけ気の毒に思えるように、祭り上げると呼称しても過言では無いように捉えられた。
 キー局はこぞってドキュメンタリー番組を制作し、週刊誌は彼女の知人を捕まえては過去の美談や苦労話を記事にした。

 そんな数々のひとつに、僕が今も憶えているものがある。

 なにが早川さんをそこまでさせるのでしょうか? 過酷とも言える練習内容について、タレントアナウンサーがテレビ番組の取材でそう問うた時の彼女の返答が、やけに印象に残ったのだ。
 ――私は音楽でしか人に何かを伝えられませんから。
 彼女はなんでもない、と言うように笑って。手話でそう答えたのだった。
 悪気があった訳ではないのだろう、けれどアナウンサーは笑顔を張りつかせたまま凍りついてしまっていた。

 僕はそのインタビューを眺めながら、青い炎ほど高温だという話を思い浮かべていた。

 一見クールで淡々としているように見える早川薫だが、内に秘めたものは並大抵ではないのだと感じたのだ。
 言葉が話せないということが彼女の、僕の様な凡夫には想像もつかない領域のストイックさの背景にあるのだろう。

 しかもそれを当然だと思っているように見えたのだから、僕はなにか恐怖めいたものさえ感じた。
 ニコロ・パガニーニは魂を悪魔に売り渡してヴァイオリンの超絶技巧を手にしたと言われたが、彼女もまた何かを無くしてしまった様な、そんな怜悧さが――青い炎を僕に想起させたのだ。
 そして彼女が演奏するピアノも、何か奥底で静かに燃え上がる様な、せり上がって来るような。そんな逼迫した音を奏でていた。

「しかし。彼女のコンクールの演奏をテレビで見ましたが、凄かったです」
 ベートーヴェンピアノソナタ第十四番、「月光」。
 約十六分の間、テレビから目を離すことが出来なかった。
 惹き込まれた。

 そして。

 あいつも――『彼女』も、あのまま音楽を続けられていれば、こんな風に世間の注目を浴びていたのだろうかと。
 そんな事を、思った。

「うん。早川さんは、本物の天才だと思うよ」
「先輩だって」
 という僕の言葉を視線で遮って先輩は続けた。
「わたしだってそれなりにプロとしての自覚も、プライドもあるよ。でも」
 先輩は手許のグラスの琥珀色を眺めながら少し間を取った。

「でも――聴いたんでしょ? 早川さんの演奏」
「はい、月光を」
「あれはずるいよね。三楽章をあのテンポで余裕を持って、一音一音が綺麗で……」

 とんとんとんとんとん。
 先輩の両手がカウンターの上を滑る。
 月光を弾いているのだろう。

「あれで二十歳でしょう? これからどんどん伸びていくよ」

 ミスタッチをしたのだろうか、先輩が小さく舌打ちをする。
 僕は月光なんて弾けない、と笑うのも。先輩と早川薫の楽器が違う事を指摘することも間違った選択肢だ。
 僕は彼女たちのように音楽のプロではないし、その土俵に立つ者同士が解るものもあるだろうからだ。
 けれど、他に何と声を掛けて良いのかも解らずに僕は黙ったままでいた。

 横目で先輩を見ると、しかし、愉快そうに笑っていた。
「だから」
 先輩はその笑顔のまま僕を向いて言う。
「折角わたしが早川さんの生演奏を聴かせてあげるっていうんだから、もちろん来るわよね?」
「招待席の中でもとびきりの良い所でお願いしますよ」
 そう僕はおどけてみせた。
 小さなバーに先輩の笑い声が響いた。
プロフィール

8

Author:8
機械音痴、方向音痴。

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