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「ラストシーン」 p5

20100725

 “美月の代わり”になる。

 少しでも美月の事を知って居る人間ならば、それを快く引き受ける者は居ないのではないかと思う。――少なくとも私は、そんな事が自分に出来るとは、到底思わなかったのだ。

「部長から言われてたの、団体戦の事だよね?」

 照りつける夏の日差しの中、「清高ー、ファイオー、ファイオー」と声を上げて外回りのランニングをしていた列に遅れて加わった私に、同級生がそう声を掛けた。
 おめでとう、と。
 
 成程、“おめでとう”か。確かに団体戦のメンバーになることは、めでたい事なのだろう。一定の実力を認められているという事なのだから、私としても嬉しさが全くないと言えば、それは嘘になる。

 だけど……。

 先輩たちの最後の夏に、私が参加をしていいものだろうか。
 美月と比べるべくも無いこの私が、その場所に居ても良いのだろうか。
 果たして“団体戦のメンバーに入った”という事実を喜ぶべきなのだろうか。

「沙織、どうしたの? おーい、沙織ー?」
「……え?」
「何か今、凄く眉間に皺寄せてたよ?」
「あ、ごめん……」

 考え事をする時に眉間に皺を寄せてしまうのは、私の癖だった。

「折角なんだから、もっと嬉しそうな顔しなよ」
「……どうして?」
「どうしてって――レギュラーになって喜ばない運動部員が、この世の中の何処にいるのよ」

 彼女は、少し複雑な顔で、そう言った。

 ――あ。
 どうしてこんな事に気が付けなかったのだろう。
 私がこの事を。形はどうあれ、団体戦のメンバーに選ばれた事を喜ばなくては、メンバーになれなかった人に失礼なのだ。
 やっぱり私は、人の気持ちも碌に考えられない――冷たい人間なのだろうか。

「ごめん。私、甘えてた」
「……え?」
「ありがとう、気付かせてくれて。私、頑張るから」

 ――頑張って、美月の代役を務めきってみせるから。

 *

 射法第四節、“打起し”。
 一足開きの足踏みと同時に、弓矢を構えた両手を、正面の構えから垂直に持ち上げる。

 この時になると、もはや的以外の物は視野に入らなくなる――筈だった。

 弓道が身体と共に精神力を鍛えられると言われる所以には、“団体戦”という仕組みが作り出された事こそが在るのだろうと、私は思う。
 それはサッカーのPK戦と似ているものが在るのかもしれない――私はサッカーをやった事は無いのだけれど。

 “自分が外したら、チームが負ける”。

「やっぱりアイツじゃ――高橋じゃ駄目だったんだ。遠野の代役なんて荷が重すぎた」

 そんな事を言われるのだろうと――そう思うと、あの日の私の弓矢を持つ手は、どうしようもなく震えた。
 目眩がして、立って居る事さえ辛い。
 ――私は何をするんだっけ。何をしなければいけないんだっけ。
 
 二年生の夏、団体戦のメンバーとして試合に出場した私は――役目を果たす事が出来なかった。

 もう、弓道なんて嫌だ。辞めてしまおう。
 私が初めてそう思ったのも――そして私が初めて美月と喧嘩をしたのも、丁度この大会が終わった後だった。

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