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「ラストシーン」 p1

20100709

 三月九日。僕の通う高校では、卒業式が執り行われた。
 染井吉野は五分咲きといったところだろうか、しかしその薄紅色の花弁は良く晴れた空の青に栄えて見えた。

 何といっても“卒業式”だ。
 下級生から第二ボタンをせがまれたり、同級生から三年間の秘めた想いを告白されたって良さそうなものなのだが、残念ながら――或いは当然ながら、僕に関してはそう言った色っぽいイベントは何一つとして起こらなかった。

 これから僕が話すのは、我が清河高校に伝わる幾つかのちょっとした伝説と、その恩恵に見事にあやかった少しばかりの学生たちの、ほんのささやかなエピソードだ。
 どうか肩の力を抜いて気楽に聞いて欲しい。そして願わくば、ご自身の青き高校生時代の卒業式の事などを思い起こして頂ければ幸いである。

*

 委員長というのはどの学校の、どのクラスにも等しく存在するものであろう。そしてそれは例に洩れず我が清河高校の、我が三年C組にも当てはまる事だった。

 高橋沙織(たかはしさおり)は、見るからに委員長というタイプの生徒では無かったと言って良いだろう。真面目ではあったが、委員長に求められる“面倒見の良さ”や“あたたかさ”などと呼ばれるような気質が欠けていたように、少なくとも僕には見えた。更に言ってしまえば、僕は彼女に対して“クールだ”という印象さえ抱いていたのだ。

 弓道部に所属していた所為か、いつも背筋がぴんと伸びていて、意思の強そうな視線も真っ直ぐ。肩まである黒髪までもさらさらなストレートで、風に舞う度にそこはかとなく漂うシャンプーの甘酸っぱい香りは、健全な男子生徒達の鼻を平等にくすぐっていた。

 成績は良いらしい。どうやら県外の国立大学に進学をするようで、春からは独り暮らしなのだと友人と話しているのを、僕は自分の席で本を読みながら耳にした。

 友人は多くも無く、少なくも無く。人当たりは決して悪い方では無かったが、必要以上に人と関わる事は好まないようにも見えた。
 これらの事を鑑みても自ら進んで委員長を引き受けるような人間には思えないのだが、彼女が委員長に立候補をした理由は僕の知るところでは無い。

 もしも僕が半紙と毛筆を手渡され、「彼女を漢字一文字で表現せよ」と言われれば、“凛”という文字を選ぶだろう。僕がその漢字を上手く書けるかは別として、だが。
 
 拙い紹介だったが、幾らかは彼女を――不機嫌になると少し目を細める彼女の姿などを思い浮かべて頂けただろうか。僕の数少ない役目の殆どはこれにて終了である。脇役は大人しく舞台の袖に引っ込んで、ここからは彼女の口から3月9日に起こった事の顛末を話して貰うとしよう。

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